仏師とは、ご寺院やお仏壇の御本尊や開祖の像などを彫る職人です。
木という素材を用い、時に優しく、時に荒々しく、その御姿を生き生きと描き彫り出します。
仏師(ぶっし)
Bus-shi
The work of Bus-shi.
仏師の仕事
御仏を彫り上げる技
礼拝の対象を彫るということ
仏師の仕事は、仏像彫刻ですので仏像を彫ることです。
その仕事は信仰という世界の中心に最も近い仕事とも言えます。京都の仏壇仏具の発祥も、はじめは仏師の工房から始まったと言われています。仏像は各ご寺院に納められ、訪れる方々に拝まれ、僧侶の方々はその仏像に向かって日々のお勤めをされます。
その仏様の表情やお姿が人々に受け入れられ、心の安らぎを得ていただけるよう、彫りこまれた仏様がもつ気配や雰囲気など彫りの技術や目に見えるものではない部分に最も気を遣うと仏師は話してくれます。
仏像も本堂内陣も、本来は見ることのできない極楽浄土を現世に再現するために設えられますが、中でも直接的な信仰の対象となる仏像には、より精神性の深い部分で拝まれる方とその信仰を橋渡しする役割が求められるのです。
彫刻という人の手が生み出す造形の中に、目には見えないものを生み出す仕事、それが仏師が仏教伝来以来、長い歴史の中で脈々と受け継いできた「答えのない問いに応え続ける」という果てしない仕事といえます。
生を生み出す造形
木彫を行う彫師には、造形的な欄間や机などの彫りを行う彫師、柱などの建造物に彫りをつける彫師、そして仏像を彫る仏師などさまざまな職種があります。中でも仏師がとりわけ優れている面は、質感の表現にあります。
仏師の彫はとても写実的で、仏像だけでなく蓮の葉や描かれる動物や神獣なども今にも動き出しそうなとても生き生きとした彫りを行います。なぜそんなにも生き生きとした写し絵のような彫が生まれるのか、それは木地で仕上げられた仏像の彫りを見ていただければよくわかると思います。
仏像のお姿の中には、素肌の部分や衣をまとっている部分、そして甲冑を着た姿のもの、また仏像の頭部や胸のお飾りも、通常は金属で作られているものがあるはずです。
しかし、仏師はそれらのものの質感を木の樹種や木地の色を変えるのではなく、彫りの質感によって同じ硬さの木の中に、柔らかさや硬さ、重さや軽さを表現していきます。そのことによってその御姿は、素肌は柔らかく、まとった衣は薄く軽く、風にたなびき、甲冑は重く頑丈で、水面やせせらぎは静かに流れ、蓮の花や葉は強くしなやかに伸びて見えるのです。
木という素材の中に生き生きとした「生」を生み出す彫り、それが仏師の持つ彫りの特徴的な一面ということができます。
表情に現れる系譜
仏師が京都における仏壇仏具製造の始まりであり、今も京都には有名な仏師の名前と流れを継ぐ工房が幾つもあります。
そして仏師の方々は、仏像のお顔やお姿を見るだけで、いつ頃の時代に彫られたかある程度はわかるといいます。それは、仏像のお顔の輪郭と表情に受け継がれてきた特徴が見て取れるからです。
面長な顔、丸っこい顔、頬のライン、目の位置、口や鼻のバランス、仏像が持つ御顔の形や表情は仏師たちが刻んできた彼らの仕事の名刺のようなもの。それと時代的な流行も相まって、今でも仏師たちは御仏像を見ると誰の系譜を受け継ぐ人がいつ頃の時代に取り組んだ作品なのかがわかるのです。
礼拝の対象である仏像には形式的作りや姿勢、付随するお飾りやおともになる動物や神獣がある程度決められています。それは様式美として今も受け継がれていることからも、仏師たちは過去の作品から仏像のお姿や彫りの技術を見て学びます。
仏教伝来の時から脈々と受け継がれてきた仏師の系譜は、彼らが向き合ってきた御仏像の御姿に形を変えて樹形図のように絶えることのない伝統と様式を守ってきたのです。