彫師

彫師(ほりし)

Hori-shi

The work of Hori-shi.

彫師ほりしの仕事

物語を彩る挿絵の世界

彫師の仕事を思い浮かべる上で一番わかりやすいのは欄間(らんま)だと思います。
家やお仏壇、家具などに施されている彫り物をつくるのが彫師の仕事です。

彫師

装飾という美意識

日本の工芸の中にはとてもたくさん木地を使う職業があります。
建築物そのものや中に納められる家具や調度品にもいろいろなところに彫り物が施されているのは彫師の仕事の証です。彫師は作られるそのものの形状ではなく、装飾性のある設えを行うときにその仕事を求められます。

彫師が主に取り扱うのは平面ものが多いです。欄間や幕板などの彫り物が代表的なモノと言えます。建造物や家具などには平面や角が幾つも存在します。それらの空間をキャンパスとして彫師は求められる造形を施します。それは物の美しさやその製品が持つ上質感、気品、躍動感など形だけでは物語れない奥行きを追加していくような存在と言えるでしょう。たくさんの平面で構成される製品が彫りの造形なしには在り来たりの素っ気ないモノに見えてしまうはずです。彫師はその技術を持って製品に形状だけでは生み出せないその物が纏う美意識を具現化し、人の印象に残る何かを装飾という世界の中で形作ります。

彫師彫師

情景を描き出す造形

彫りの中にも、平面のモノと立体のモノがあります。大きく分けると立体物は仏師のような造形を設える仕事、平面に対して彫りを施すのが彫師の仕事と言えます。もちろん彫師の仕事の中にも平面でも奥行きのあるものや立体的なモノもありますが、主には平面を扱います。

またその彫刻される造形にも特徴があります。立体物を彫る仕事は生き物のように立体的であるものを写実的に切り取って表現しますし、仏師の仕事は正にそれにあたります。では、逆に彫師の生み出すものは何かと問われれば、それは「情景」です。わかりやすく例えるのであれば、絵本の中の挿絵のようなもので、見る人のイメージや印象に大きな影響を与えるけれども、それ自体が主になるのではなく、あくまでも製品全体の造形としての美しさや質感を具現化して表現している、と言えます。日本の建築に見られる欄間も同様です。あくまでも建築物であり、建物であり、その部屋が一つの完成品として成立している中で、決してメインにはならないけれども全体の印象や質感に大きな影響を与えている。彫師の仕事の妙は情景を描く事によって本質に寄り添いつつ存在する名脇役と言えるかもしれません。

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歴史と伝統に基づく図案

情景・挿絵・印象を描く彫師が彫り上げる題材は、日本の歴史や伝統、そして仏教の伝来とともに伝えられたさまざま出来事や故事、吉兆や護国、厄除け…などなど数多くの日本の生活文化の中に溶け込んできた物語やそのシーンが描き出されています。日本では衣服や持ち物、食べ物でもよく縁起物と言われるものが多いですが、彫師が描き出す情景にはそういったものも多く含まれます。

それらのモチーフになる図柄には歴史と伝統を基にした組み合わせやルールが多く見受けられます。例えば「松に鶴」「梅に鶯」「葡萄に栗鼠(リス)」といった具合に植物と動物を組み合わせたものや、仏教の経典の中に登場するシーンや人物の組み合わせなどが代表的なモノになります。そのことを頭に改めて彫りを見てみると、今度は作られた時代や地方、制作をオーダーした人や建物がどんな用途だったか、作り手が誰でどんな系譜の職人だったか?などによってそのデザインも脈々と変化しています。有名な琳派のように一世を風靡する思想が影響を及ぼしたり、戦国時代や江戸時代など時代の背景によって変わったり…しかし、その中でも伝統的な図案のルールはある一定の規則を守られていることで逆に興味深く面白い図案や構成を楽しむことができます。

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