箔押師は、漆塗の上や金属の表面に金箔を押す(貼る)仕事です。
箔を押すことで黄金の輝きをまとわせ、あらゆるものを引き立たせます。
箔押師(はくおしし)
Hakuoshi-shi
The work of Hakuoshi-shi.
箔押師の仕事
荘厳さを生み出す礎
薄さ1万分の1mmの箔
箔押師の仕事は、漆、金属の表面に金箔を押す(貼る)ことです。
ご寺院の内陣などで見る金色の柱や壁面、荘厳具は金箔が押されています。木地だけでなく、金具や吊り物(金属)にも金箔押の技術が用いられています。
漆黒の漆が金色に輝きだす様はまさに圧巻としか言えません。金箔は薄さ1万分の1mm、それは手の表面に乗せてこすると消え去ってしまうほど。吐く息だけで飛んで行ってしまいそうなのに、漆の上に押すことで、何とも言えないきらびやかな輝きを生み出します。
平面だけでなく、彫刻の細やかな表現や錺金具で作られた繊細な模様も、薄さ1万分の1mmだからこそ、その素地の美しさを損なうことなく、ありのままに金色に仕上げていきます。
京都の金箔押は手作業で作られた最高品質の金箔を用い、高い技術で作られた卓類(御机)や道具、装飾品など、実に様々なものを黄金色に染め上げます。
本質は漆の粘着性
金箔は通常、漆を用いて押されます。
粘性のある生漆を接着剤にする上で重要なのは、均一に拭きあげること。
金箔はとても薄いので、少しでも漆の拭きあげにムラがあると、そのまま表面に出てしまいます。漆がのっているかギリギリのところまで拭きあげ、そっと金箔を乗せていく作業が黙々と続けられます。
この漆の拭きとりの段階で、仕事のほぼ8割は終わっていると言われます。壁面などにうっすらとした箔目(箔の境目の線)を残しつつ、まっすぐに並べられることも驚きですが、それ以上に漆の残し具合が重要です。
また、生漆の乾き方やそのタイミングをコントロールし、小さなものから大きな壁面に至るまで、一度に生漆を塗り、拭きあげ、乾くまでに押し上げなければなりません。
そのため、箔押師はその日の金箔を押す素材、形状、気温、湿度などその時々の環境に合わせて、漆の配合を毎日作り変えます。薄い金箔の取り扱い以上に、接着する漆の素材をコントロールすることが金箔押しの最も難しい技術といえます。
様々な表情と素材の風合い
日本の金箔の色は、アジア圏やヨーロッパで見られる金色とは少し違います。ギラギラしたテカリのある金色ではなく、しっとりと落ちついた金色。
日本の金箔は世界中どこよりも品質の高いものです。その色合いを決めるのは金箔の品質もありますが、漆の塗り具合、その表面の質感によって変化するのです。
金箔自体の薄さにより、金箔が押される下の素材の風合いが表に出てくることで、同じ金色の中でも微妙に違う質感の差を表現していきます。
ご本堂などで柱や壁面に金箔が押されていても、それが木製品か金属製品かが見て取れるのは、金箔の技術がその素材の持ち味を生かして見せているからに他なりません。力強さとは真逆の繊細な素材と精微な技術を併せ持つことによって日本の工芸技術の金色は生み出されています。