錺師

錺師(かざりし)

Kazari-shi

The work of Kazari-shi.

錺師かざりしの仕事

実用と装飾美の融合

錺師とは、製品の随所に見られる金具を作る職人です。
ご寺院の屋根破風に飾られる大きなものから、お仏壇本体、お仏具の脚や框、襖の引手など、実用性を持ちながらも装飾性を高める逸品を生み出します。

錺師

日本の美意識

ご寺院などの屋根の破風に見られる大きな金色の金物装飾を作るのは錺師の仕事です。
ご寺院や歴史的建造物などの中に入ると、柱や壁面、襖の取手、調度品の縁など各所に金色の金具がつけられているのを見ることができるはずです。

日本の伝統的な技術は装飾性のみを目的に考えられていることはとても少ないです。物を長持ちさせるため、形状を安定させるため、強度をあげるため、合わせ目を隠すためなど、非常に実用的な意味合いがあって付けられています。
しかし、ただ付けるではなく人の目に触れるところにあるからこそ、見た目も美しく品格も高く仕上げるのが日本人の美意識だったのでしょう。侍が刀のつばという実用性のためにある部品に最も多くの装飾を設えたことにも通ずる部分があります。

実用性と装飾性、この相反するように思われる事柄を共存させるかなめになるのが錺金具と言えます。美しい装飾性を見せるために、隠してもいい金具でさえ表につけられている箇所もあります。錺師は日本の建築・工芸の世界になくてはならないかすがいのような存在と言えます。

錺師錺師

分業のまた分業

京都の職人の仕事が多岐にわたり、日本の工芸品が数多くの職人の分業によって成り立っていることは、寺院用仏具や家庭用仏壇のひとつひとつを完成させるために必要な職人の種類の多さで理解することができます。
しかし、京都の分業はそれだけでは終わりません。この錺師という存在は、錺金具を仕上げるための分業を管理監督するポジションでもあるのです。

錺師の仕事は、銅板や真鍮板を製品に納まる形に切り取り、全体の形を作り上げます。その後は、金具に模様を作る彫金師に渡ります。装飾された後で、次はメッキの職人へと引き継がれます。その後もう一度錺師のもとに戻ってきて、最後に彫りこまれた模様や図柄を浮き上がらせて美しい見た目を引き立てる色上げという処理を行います。

錺金具という、製品の中では一つのパーツにしかならないものにも専門性をそれぞれの職人が持ち、各工程のプロフェッショナルとして仕事に従事してきたことが他に類を見ない工芸品の質の高さを作り上げてきました。

錺師

銅板・真鍮板の可能性

錺金具の仕事で一番驚くのは、素材の到着と製品として完成したものを引きとる時のドラマチックな変化です。銅板は10円玉を薄くしたようなものです。何の変哲もない茶色の普通の板。
しかし、錺師の目には完成する姿が確実に見えています。大きさを切り出す際にも途中の製造工程や熱が加わった際の銅板の伸び縮み、曲げる際や叩くことによる変形…。
銅板が製品化されるまでに通る幾つもの工程や、素材に対する影響を鑑みて、その特性を熟知しているからこそできるアプローチが錺師の真骨頂と言えます。

銅はとても柔らかい素材です。曲げたり叩いたりするとすぐに伸びます。
そのため図面の大きさ通りではその後の工程で起こる変化によって完成品の大きさが変わってきてしまいます。図面から立体的な形状を読み解き、必要となる分業の職人たちの仕事を考慮して錺師は銅板の素地を形作っていきます。とても素朴な銅の板が型取りされて工房を出ていき、美しく模様が装飾され、金色に輝く芸術品になって戻ってきます。
最後に表面をより美しく色上げしたのちに納められる製品は眩い美しさをまとって旅立っていきます。

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