漆塗は日本古来から続く伝統技法です。
漆を磨き上げた美しい輝きだけでなく、漆の上に金粉で絵を描く蒔絵や、金箔を押すなど、様々な技法の事前工程にもなります。
塗師(ぬし)
Nu-shi
The work of Nu-shi.
塗師の仕事
日本の工芸に欠かせない技法
表面に見えない数々の仕事
塗師の仕事は、木地師から木地が届いた段階から始まります。木地に対して初めに行うのは木地の状態の把握。不具合があれば修正します。続いて堅地や半田地と呼ばれる下地付け。和紙や布地などを用いて木地の強度を高めるとともに表面を滑らかにします。表面を研いでは塗りを繰り返します。
下地の工程から中塗りに進みますが、ここでも塗りと研ぎを数回繰り返し、最終的に上塗りをして仕上げます。上塗りも表現や質感を重視し、モノにもよりますが2~3回塗ることもあります。このように、漆塗りと聞くと表面の艶やかな漆黒を思い浮かべますが、その漆黒の裏にはとても長い作業工程が隠れています。
漆塗りの品が古代から残る文化財として全国各地に残っているのは、この隠された工程(仕事)の数々が製品の強度と美しさ、両面において役割を担うからです。
漆の美しい表面とその裏に潜む数々の仕事。その仕事があって初めて漆はより艶やかに輝きます。
古くから使われてきた理由
漆の製品は、正倉院(紀元8世紀頃)の宝物庫やそれよりもずっと古い遺跡(縄文時代など)からも出土しています。
漆の製品がこんなにも多いのはなぜでしょうか。それは、漆の素材としての特徴に大きな意味があります。
漆は、防水、防虫、抗菌、熱にも強く、強度も硬い。さらに接着作用があり、木地自体の強度を増す働きもあります。
そのため、木地だけでなく、布地に含浸させたものなどさまざまなものが見つかっています。
遺跡などは時として水につかってしまったりすることもあります。乾燥していたり、石造りの遺跡が多くみられるヨーロッパやアフリカと違い、湿気が多い日本において古くからの木製品や布製品などの文化的価値の高い工芸品が見つかるのは漆の性質が極めて大きな役割を担っているとも言えます。 数千年の時を経て、日々の生活にも利用され、試行錯誤され続けてきた漆の世界。
表面に見える最後の上塗りだけでなく、すべての工程に深い意味があり、下地から漆の層が積み重なるのと同じように、歴史が積み重なっています。
漆の特殊表現や質感
漆の色を思い浮かべると、「黒」のイメージが強いと思います。代表的なもので、黒・赤・茶など漆独特の色味として昔から愛用されてきました。
漆器などで見られる色のほかにも、昔から美術工芸品として愛される特殊な表現があります。
代表的なものは、「溜塗」といわれる朱漆等の表面に半透明な透き漆をかけたもの。木地の木目が透けている茶系色の塗りは「木目出し塗」。透き漆に弁柄を練り合わせた「うるみ塗」など中塗の漆によって複数の色や技法が存在します。
また、漆の質感の表現として、乾漆といわれる技法があります。この技法は一度漆をガラスなどの上に塗り、乾燥後剥がして粉にし、漆を塗った面に蒔くことで、ザラザラとした漆の表面を作ります。この表面に上塗りをかけて研ぎ、生漆で仕上げることで、鏡面とは違うざらつきのある質感を出すことができます。
また、研がないことでさらにマットな仕上げにするなど、さまざまな表面の質感を表現することが可能です。黒一色に思う漆の世界も実は数多くの色があり、美術的表現技法が存在します。