蒔絵師

蒔絵師(まきえし)

Makie-shi

The work of Makie-shi.

蒔絵師まきえしの仕事

華やかさと繊細さの美

蒔絵師とは、様々な種類の金粉を使い漆で絵を描く職人です。
金のほかに螺鈿(貝殻)、多様な金属や宝石、鳥の卵の殻なども用いて様々な色や質感を表現します。

蒔絵師

金から生み出す数々の表情

蒔絵の技法は、全国の漆器の産地などに残されています。京都でも漆器や箱物などにも蒔絵は用いられますが、仏具職人の持つ蒔絵の技法は、小さな日用品に留まりません。ご寺院の内装や扉などさまざまな箇所に蒔絵は施されます。

蒔絵の技法を簡単に説明すると、とても小さな金の粒子を粉筒と呼ばれるストローのような筒から漆の上に蒔くことで作り上げられていきます。
しかし、同じ金の粒や粉ばかりでは多彩な表現効果を生み出すことはできません。金の粉にも、丸粉、平目粉、梨地粉など形により名前が違います。さらに形の違いだけでなく、粉の粒度も15~20段階(1000分の5mm~0.3mmほど)に分かれており、それぞれに質感が変化します。このように蒔絵には約80種類ほどの金粉を用います。

その上で金だけでなく、青金やプラチナ粉、銀粉、金属以外にも螺鈿や宝石類、卵殻など数多くの素材、色漆を用いて描くことで蒔絵の描写の世界が広がっていきます。

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うるしが乾くとは

漆はむろと呼ばれる部屋で乾かします。乾かすという表現は正確ではなく、硬化しているという方が正確です。
室の中は湿度と温度が高い状態で保たれています。漆は湿度が約70~85%程度、温度が24~28度程度で硬化していきます。そこが漆と他の接着剤や塗料とのとても大きな違いです。

逆に考えると、乾燥していて、温度が高くなければ漆は硬化しません。蒔絵の技法を考えるとき、その描画を進めていく段階で用いられている漆がすぐに乾く性質を持っていたら、これほどまでに繊細で時間のかかる美的表現を実現することはできなかったでしょう。

蒔絵師は塗師以上に漆の微細な変化やコントロールに長けています。美しい塗りを施す塗師、漆を接着剤として用いる箔押師、漆の表現効果を追求した蒔絵師、それぞれの世界に奥深さがあり各職ごとに漆への向き合い方は変わりますが、蒔絵師はその中でも漆が特定な条件でしか硬化しにくいことを最大限に活用し、仕事を進めていきます。

漆という東アジアにしか生息しない樹木の樹液を用いて、アジア各国には漆を使った工芸品がありますが、蒔絵の繊細さと表現技法の域は世界でも類を見ないものとして、世界中の蒐集家や愛好家に重んじられてきました。

蒔絵師蒔絵師

多彩な質感と色合いの表現効果

蒔絵師は漆に関わる職の中でもっとも多くの素材や色を用います。
金粉やプラチナ粉などの金属粉を用いることは常ですが、漆にも艶やかな赤や朱、紫、茶、青や緑など数多くの色が存在します。
また色の数だけ乾漆と呼ばれる、漆を硬化させたものを砕いて粉にした乾漆粉もあり、それも粒度の差によって使い分けられます。

また、代表的なものとしては夜光貝や白蝶貝、黒蝶貝、あわびなどの真珠層を薄くはく剥離して貼り付ける螺鈿がありますが、それ以外にも鶏やウズラなどの卵の殻、金属粉の代わりにエメラルドやオパールなどの宝石を砕いた粉を用いることもあり、素材の数だけでも莫大な種類になります。

さらに金箔を漆の表面に撒く蒔くだけでなく、漆に金粉を沈めてから研ぎだすことで絵を生み出す技法や、漆を重ねることで高さを出し高低差を利用した表現など、数多くの技法を駆使して美術館や博物館に納められる芸術品から、食卓に並ぶ漆器まで実に幅広い装飾品を生み出します。
それは漆という漆黒の背景の中で、それぞれの素材が持つ風合いと輝き方の差異が生み出す美しくも奥深い、知恵と技法を兼ね備えた職人だけが生み出せる芸術です。

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