仏壇だけでなく仏具にも正式な種類があります
浄土真宗にとって、より正式なお仏壇の種類は金仏壇であることを「浄土真宗の大谷派と本願寺派のお仏壇の違い」の中でお話しさせていただきました。
浄土真宗の宗派による仏壇の違いや仏具の飾り方についてはこちら
お仏壇・仏事のあれこれ「浄土真宗の大谷派と本願寺派のお仏壇の違い」「浄土真宗のお仏壇の基本の飾り方」
実は、宗派にとって正式な種類があるのは仏壇だけではありません。
仏具にも宗派にとって正式な種類というものがあります。
「せっかくお仏壇をお家に迎えるなら、きちんとしたかたちで用意したいな」
そんなふうにお考えの方には金仏壇、そして仏具についても宗派にとって正式な種類のもので用意されることをおすすめします。
といわれても、宗派にとって正式な仏具をすぐに思い浮かべることができる方は少ないのではないでしょうか。とはいえ、お寺や仏壇店に足を運んで尋ねに行くことも、なんだかハードルが高いですよね。
そこで皆さまにまずは気軽に浄土真宗の正式な仏具について知っていただけるように、今回は浄土真宗の仏具について、その中でも代表的なものをご紹介させていただきたいと思います。
これからお仏壇や仏具を用意される予定の方、お家のお仏壇についてもう少し深く知ってみたい方。こちらを読んでいただくと、浄土真宗の仏具について、今よりも詳しく知っていただけるかもしれません。
若林佛具製作所は浄土真宗御用達の仏壇店として歩んでまいりました
若林佛具製作所は、仏教各宗派の本山が集まる京都の地で天保元年(1830)に創業し、以来、寺院用仏具と家庭用仏壇仏具の製造販売の仏具店として歩んでまいりました。
そしてその歩みの中で、東本願寺や西本願寺、仏光寺など多くの浄土真宗のお寺様とのご縁をいただいております。
たくさんのお寺様からいただいたご縁の中で学ばせていただいた知識や経験を豊富に持っていることが、私たち若林佛具製作所の強みの1つとなっています。
浄土真宗の大谷派と本願寺派
浄土真宗は親鸞聖人(しんらんしょうにん)が鎌倉時代中期に開き、室町時代に蓮如上人(れんにょしょうにん)の精力的な布教(ふきょう)活動によって多くの人に知られるようになった宗派です。
あまり知られてはいませんが「真宗十派(しんしゅうじゅっぱ)」といって、十の宗派に分かれています。その浄土真宗の各宗派の中でも、寺院数が多いのが大谷派と本願寺派です。
浄土真宗の大谷派は正式には「真宗大谷派(しんしゅうおおたには)」といい、本山は京都にある東本願寺で「お東さん」という愛称で親しまれています。
浄土真宗の本願寺派は正式には「浄土真宗本願寺派(じょうどしんしゅうほんがんじは)」といい、本山は京都にある西本願寺で「お西さん」という愛称で親しまれています。
浄土真宗の仏具についてご紹介するにあたって、今回は大谷派と本願寺派の正式な仏具に絞ってお話させていただきたいと思います。
浄土真宗の大谷派と本願寺派の三具足
三具足(みつぐそく)とは花瓶(かひん)、蝋燭立(ろうそくたて)、香炉(こうろ)が1つのセットになっている仏具のことをいいます。「献花(けんか)、献灯(けんとう)、献香(けんこう)」というように、仏教において「お花を供えること、灯を灯すこと、お香を焚(た)くこと」はご本尊をお祀(まつ)りする際に欠かせないものだと考えられています。
それでは浄土真宗の大谷派と本願寺派の正式な三具足とはどのようなものなのかみていきましょう。
まず浄土真宗の大谷派の三具足が以下のようなものです。
浄土真宗の大谷派の三具足で特徴的なのは蝋燭立のデザインです。亀の上に鶴が立っており、鶴は蓮を咥(くわ)えた姿をしています。 見た目は金色で、真鍮(しんちゅう)や真鍮の上に金メッキを施(ほどこ)した状態で仕上げられています。
次に浄土真宗の本願寺派の三具足が以下のようなものです。
浄土真宗の本願寺派の三具足は「菖蒲(しょうぶ)型」や「六角型」とよばれており、ご本山では御堂(みどう)や荘厳(しょうごん)によって使い分けられています。
特徴的なのは花瓶の「耳(みみ)」とよばれる持ち手のような部分で、よくみると獅子(しし)の形をしています。色は金色ではなく、茶褐色(ちゃかっしょく)です。これは、鋳物(いもの)の上に漆(うるし)で色をつけた「漆焼き付け」や金属を薬液の中で煮ることによって化学反応を起こして発色させる「煮色(にいろ)」とよばれる手法によって仕上げられているからです。
浄土真宗の大谷派と本願寺派の土香炉
香炉とはお仏壇の下段に置き、お線香を焚くときに使う器のことです。
土香炉(どごうろ)はその香炉の種類の1つで、陶器で出来た青磁(せいじ)色の香炉のことをいいます。
土香炉は浄土真宗のみで使用する香炉です。また香炉として土香炉を使用するところは浄土真宗の大谷派も本願寺派も共通ですが、その土香炉に施されている模様は宗派によって異なっています。
それでは、以下で大谷派と本願寺派の土香炉の違いをみてみましょう。
まず浄土真宗の大谷派の土香炉が以下のようなものです。
浄土真宗の大谷派の土香炉は、香炉全体に透かし模様が施(ほどこ)されています。この模様は牡丹唐草(ぼたんからくさ)を現(あらわ)しています。
一方で浄土真宗の本願寺派の土香炉が以下のようなものになります。
本願寺派の土香炉は大谷派の場合と違い、飾りのない無地のものを使用します。
そのほか浄土真宗特有の線香の供え方で、浄土真宗以外の宗派がお線香を香炉の中に立てて供えるのに対し、浄土真宗ではお線香を香炉の中に寝かせて供えます。
浄土真宗の大谷派と本願寺派の輪灯
輪灯(りんとう)は、お仏壇の中を明るく照らすための仏具です。
最近ではお仏壇の飾りから輪灯を省略してある場合も多くなりましたが、輪灯が飾られているお仏壇はやはり華やかで立派な印象を受けます。
この輪灯にも宗派によって正式な種類のものがあり、大谷派と本願寺派でも使用する種類が異なっています。
まず浄土真宗の大谷派の輪灯が以下のようなものです。
浄土真宗の大谷派の輪灯で特に独特なのが法要時の飾り方です。大谷派では法要などの際に輪灯の上部へ「瓔珞(ようらく)」とよばれる装飾(そうしょく)を取りつけてお仏壇の中へ飾ります。
それが以下のような状態です。
この飾り方は浄土真宗の大谷派でしかみられない飾り方で、そのほかの宗派では輪灯の上部へ瓔珞を取りつけることはありません。
次に浄土真宗の本願寺派の輪灯が以下のようなものになります。
浄土真宗の本願寺派の輪灯は「菊輪灯(きくりんとう)」とよばれています。名前の通り、輪灯には菊の花と蔓(つる)の装飾が施されています。
浄土真宗の大谷派と本願寺派の供花
供花(くげ)とはお仏壇の中へ干菓子(ひがし)や餅(もち)などの供物を供える際に使用するお皿のような役割のもので、浄土真宗特有の仏具の1つです。
供花は正式には供笥(くげ)と表記します。供笥のことを華束(けそく)とよぶ場合もあります。
浄土真宗以外の宗派では、似たような役割の仏具として「高坏(たかつき)」とよばれる仏具を使用し、菓子や果物を供えます。
本来供花には、上からみると八角形をしたものと六角形をしたものがあります。
正式には浄土真宗の大谷派の場合には八角形の供花を、浄土真宗の本願寺派の場合には六角形の供花を使用します。ですが実際は、とくに家庭用の場合、大谷派か本願寺派かで形を使い分けられていることはあまりありません。
正式な種類の仏具で用意しないといけないの?
今回は浄土真宗の大谷派と本願寺派の正式な仏具についてお話してまいりました。
「だから家のお仏壇の仏具は鶴と亀のローソク立てだったんだ」「香炉が青いのは浄土真宗特有のものだったのね」
お家にお仏壇がある方は、今まであたり前に飾ってあった仏具が実は宗派によって決まっている種類のものだったことに気づかれたかもしれません。またこれからお仏壇や仏具を用意しようと検討されている方は、宗派の違いによって仏具も選ぶものが変わる、ということを知っていただくきっかけになったのではないでしょうか。
今回ご紹介した浄土真宗の大谷派と本願寺派の正式な仏具はたくさんある中の一部であり、実際にはほかにも様々な宗派特有の仏具があります。もしあなたが「浄土真宗の正式な仏具を揃えたい」と考えている場合には、このことを思い出しながら揃えていただきたいと思います。
一方で、仏具は必ず宗派にとって正式な種類で揃えないといけないのでしょうか?
そんなことはありません。
仏具には宗派を問わずに使える種類のものもたくさんあり、必ず上記でご紹介したような正式な仏具を用意しないといけないというわけではないのです。
リビングに似合うモダン仏壇や省スペース型のミニ仏壇など、昨今はお仏壇もニーズにあわせて多様化しています。それと同じように仏具やお仏壇の飾り方も、おひとりおひとりのご事情やご希望にあわせて選んでいただけるように多様化してきています。
正式なかたちで用意していただくもよし、宗派を問わずに使えるもので用意していただくのもよし。大切なことは、日々お守りいただいているご本尊様やご先祖様へ感謝の気持ちをもって手を合わせることではないでしょうか。
そのような気持ちが忘れられることなく次の世代、次の世代へと引き継がれていってほしいと思います。